YS-11博品館


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10.YS-11-117(製造番号2031)のコックピットパネルの一部
 航空趣味愛好家・特にコレクターにとって究極の夢は、実物の航空機を所有するということであるが、普通は叶うものではない。ではせめてコックピット部分だけでも・・・といってもやはり困難。となると結局は計器などの部品を手元に置くことで満足するしかないのであるが、それでも単にひとつひとつバラバラの計器よりは、それが実際に使われていた時の様子を少しでも残した形でまとまっているのならば、その方が臨場感が高まるというものである。

 ここに紹介するのは筆者が最近入手した、YS-11コックピットパネルの一部である。エンジン火災時等に関連した緊急性の高い装置が集められ、計器板中央部に装着されていたものである。飛び出した目玉のように左右に見えるのは、プロペラ・フェザー・ボタン(エンジン故障時にプロペラのピッチ角を変え、空回り状態をつくる)。その内側に見えるレバーは、手前に引くことで緊急時にエンジンへの燃料供給をカットするシャットオフ・レバー。その上に赤い蓋が並んでいるが、この蓋を開けると、エンジン消火スイッチがある。エンジン消火スイッチは、左へ倒すと1回目の消火剤噴射が行われ、それでも消火しない場合は右へ倒すと2回目の噴射が行われる仕組みである(この赤い蓋の上には、白字でそうした説明が書かれている)。その他、左右にはエンジン防氷装置などに関する警報灯が多数並ぶ。
 なお、このデザインは、YSのライバルともいえる当時の双発旅客機「フォッカー・フレンドシップ」の同様のパネルによく似ている。YSの各種装備は既存の他機種を参考にしたところも少なくなかったようであるが、その話もうなずける。

(ちなみにこの写真の背景は、YSの乗客用座席です。筆者宅に搬入後、肘掛の隙間から当時の搭乗券が数枚発掘されました。それによると、東亜国内航空から日本エアシステムの時代にかけて、「7番AB」席として使用されていたことが判明しています)

 さて、航空機の部品は一旦機体から取り外されると、普通はどの機体に装着されていたものかを特定することは難しい。ところが、幸いなことにこのパネルは機体が特定できた。手がかりは、パネルの左右の隅に貼られた機体登録番号の書かれたシール。ここには「118MP」とエンボスで書かれている。これはおそらく、ハワイのミッドパシフィック航空で活躍した機体「N118MP」を表すに違いない。製造番号「2031」のこの機体の経歴を調べると、YS-11の中でも稀有な実に目まぐるしい変遷を辿っていた。

 1966年(昭41)11月11日に初飛行後、年末にハワイアン航空へリースされる。約1年後にメーカーへ返却ののち、今度はアルゼンチン航空へリース。また1年経たないうちに再び返却され、晴れて日本の登録番号「JA8686」が付与されて東亜航空で飛び始める。1971年(昭46)に東亜航空は日本国内航空と合併して東亜国内航空となるが、その際に「さつま」号と名付けられ、日本におけるYS全盛時代の一角を担った。そして1982年(昭57)に、ミッドパシフィック航空へ売却され、奇しくも再びハワイへと渡る。さらに1989年(平成元)にはメキシコのアエロシエラに移籍。しかし2年後の同社運航停止後は、ディーラーによる転売が繰り返され、2005年(平成17)時点ではフロリダで整備保管状態にあった模様である。

 ところでこのパネルが私の手元に存在しているということは・・・2006年になって同機は解体されてしまったのであろうか? 最新の消息が掴めていないので何とも言えない。ただ、別の推理もある。同機はミッドパシフィック航空所属時の1987年(昭62)に、ホノルルで離陸事故を起こしていた。この事故は、エンジン警報システムのミスワーニングが発端であったとの由。その後の原因調査又は修理作業の過程で、まさに「下手人」に関係したこのパネルが取り外されたのではなかろうか? 同社から移籍後は登録番号が変わったため、「118MP」と書かれたシールが最近までずっと残るということも不自然である。真実は如何に?
<ホノルル離陸事故>
 1987年4月10日午前8時6分、乗客39名・乗員4名を乗せてカウアイ島・リフエ空港へ向け離陸滑走しまさに地面を離れようというその時、左翼第1エンジンの火災警報が点灯したため、クルーは離陸を中止した。実際にはエンジン火災は起きておらず、火災警報システムのセンサーの不具合によるミスワーニングであったが、非常脱出時に警報と反対側の右側からのみ脱出すべきところを左側も使用するなど混乱し、重傷1名・軽傷3名を出した。
 事故当時、まさに私の手元のこのパネルの警報灯が点灯し、このシャットオフ・レバーをクルーが引いたのである。

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